ココロノイロ

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BUMP OF CHICKEN「firefly」

久しぶりにレビューを書いてみました。

★ BUMP OF CHICKEN「firefly」

firefly

firefly

  • アーティスト: BUMP OF CHICKEN
  • 発売日: 2012/09/12

前へ前へと進んでいく感じの曲調。この曲はドラマ主題歌だったのだけど、当時は正直あまり感じるものがなかった。それはドラマで流れる部分では見えないところに魅力があったからだと後になって気付く。
firefly=蛍だと辞書を引くまでわからなかった英語の弱い私は、これまでのBUMP曲の流れを汲んで、「fireがflyだと?ひえ~命の炎がっ!(ゼロ!)」などと思いっきり勝手な妄想を展開し、当初は泣きそうになりながらこの曲を聴いていた。歌いだしが「蛍みたいな欲望が~」なのに気付けないなんて我ながら恥ずかしい話だけれど、おかげで解釈が広がったので英語ダメで良かったと思う(笑)

この曲から感じるのは、光の変遷。蛍の「光」を自分の「夢」と重ねて追いかけることがテーマになっていて、中盤以降は追いかけ続けた先を描く。それは【 やめなきゃいけない時が来た 】という、夢に破れる物語。【 頑張ってどうにかしようとして 頑張りの関係ない事態で 】と歌っているように、そうしなければ進めない時も来るんだよね…それは残酷なこと。

一人だけの痛みに耐えて 壊れてもちゃんと立って
諦めた事 黄金の覚悟
まだ胸は苦しくて 体だけで精一杯
それほど綺麗な 光に会えた

諦めることはよくないと捉えられがちだけれど、絶望の中でそう決めたことを、この曲では【 黄金の覚悟 】としている。夢を「微かな金色」と歌ったのに対し、諦めた事を「黄金」という。同じ色でも黄金はずっしりと感じて、グッとくる。しかも続くのが「覚悟」なのだから、この重みときたら!!
また、「綺麗な光」とは【 まだ胸は苦しくて体だけで精一杯 】な状態のこと。一瞬「??」となってしまうけれど、ここがとても藤くんらしいところだなと思う。藤くんがこれまで描いていることには、人の命は幸せとは対極にあるような状態のときにこそ光を放つ、みたいなイメージがあって。このフレーズも、まさにそうだなって思った。

それにこの曲、表向きはfirefly(蛍)の光=夢をテーマにしているけど、もうひとつテーマがあると思っていて。裏テーマというか、表のテーマを包括するものというか。それは冒頭の私の妄想「fireがfly」なんだ。私はBUMPの曲でfireというと命の炎、flyは宇宙飛行を連想する。《命が宇宙飛行する》 =命の時間、 は藤くんが一貫して歌い続けていること。曲の冒頭から微かに聞こえるファーーーという音がずっと鳴っているんだけど「R.I.P.」や「宇宙飛行士への手紙」のそれと似た、宇宙を感じさせる音なので、あながちこの裏テーマは間違いじゃないのではないかと思う。
サビの直前に入る【命の仕掛け】というキーワードも、まさにそうで。 夢を追いかけることがこれまで命を燃やすことだったけれど、それが不確かなものとなった中、【唯一解っていた大切なもの】は、先述の【まだ胸は苦しくて体だけで精一杯 それほど綺麗な光に会えた】 の部分になる。つまりは、それでも生きているということ。それは【決して消えない光】なんだ。夢も絶望も、生きていることの上で成り立っているのであって、そういう意味では、生きていること以上の大切なものなんてないんだよね。「fireがfly」は若しくは、《命の炎を掲げる》とも言えるかもしれない。

最も光るフレーズは、最後の2行にある。

今もどこかを飛ぶ あの憧れと
同じ色に 傷は輝く

追いかけてきた夢が【憧れ】へと変わっている。これは、夢がもう追いかけない遠い存在となってしまったことを示唆する表現に思える。また、【黄金の覚悟】を【傷】としていること、そしてそれは【憧れ】と同じ色に輝く、と結論づけるところがとても感動的だ。「同じ色」であっても、先述の「金色」と「黄金」の解釈のように、自分の中に存在する【傷】は重みが違うと感じられるし、しかも「光る」ではなく「輝く」のだから、憧れよりも強く光っているように見える。私はこのシメが自分にはない発想だったせいか、こみ上げてくるものがあって。ここを聴きたくてこの曲を聴いているところがあるんだ。

夢を叶えることができる人は僅かだ。それが叶わず生きていく人の方がずっと多い。それなのに世の中には「頑張れば、諦めなければ、いつかきっと夢は叶う!」といった応援ソングが蔓延している。けれども、この曲は違っていた。幼馴染でバンドを組み、職業として成り立たせ、着実にキャリアを積みながらも第一線にいる、そんな彼らがこのような歌を歌えるのか。すごい。
自分や誰かを表す単語なしで構成される歌詞は、聴き手に現実味を与えた。この曲に僕も君も出てこないのは、大成した者の立場である彼らが、僕や私、あるいはあなたとなって歌うことが、この曲の意にそぐわないとわかっていたからなのではないか。こういう形の歌詞はBUMPでは珍しい気がする。

まとめると、「光」が共通項となるキーワードが3つあるのがこの曲の特徴。
★ 夢 ( ハートから抜け出した欲望 )
★ 黄金の覚悟 ( 心についた傷 )
★ 命 ( 生きようとする体 )
実際の歌詞に直接的な「光」という単語で記されるのは3度だが、これらは【生きている事】=命 を指すと見ている。当初は「夢」や「黄金の覚悟」と感じられていたところもあったけど、それらを包括する「命」、という構図が見えた。

物語はまだ終わらない 残酷でもただ進んでいく
おいてけぼりの空っぽを主役にしたまま 次のページへ

夢を追いかけること、そしてそれを叶えること。それだけが人を生かすのではない。苦悩も恐怖も絶望も、そして心についた傷も連れて行く― これこそ、応援ソングだ。生きて行くための。生き抜くための。自身の体験や実感があることで、歳を重ねるほどに胸に響く曲になるのだと思う。