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長澤知之「そのキスひとつで」

久しぶりすぎるレビュー。

★ 長澤知之「そのキスひとつで」

黄金の在処

黄金の在処

  • アーティスト: 長澤知之
  • 発売日: 2013/11/06

この曲を初めて聴いたとき、私は「センチメンタルフリーク」を思い浮かべた。以前書いた「センチメンタルフリーク」のレビューで、私は「会いたい人」の解釈を「まだ出会えていない人」としたのだけれど、この「そのキスひとつで」はその先のお話のように思えてね。現実世界では会いたい人に出会えず、会えなさすぎて…ついに異次元の世界にその人を創り出してしまうという妄想。外に求めていたのに、結局内から出られてないじゃん、みたいな。

閉じられた部屋の、さらに閉じられた世界でのこと。研ぎ澄まされた意識の中でしか見いだせない異次元ハニー。その儚さ。そしてこの究極の秘密っぽさが無性に愛おしくも感じる。異次元ハニー役の赤い公園・津野さんの声がかわいらしくてとてもいい。

そのキス一つで 僕の行方は決まって
この惨めな現実も怒りも総て捨てられるのに
そのキス一つで 僕の居場所は決まって
不安な未来も 過去の傷も 今すぐ葬れるのに

「この惨めな現実も怒りも総て捨てられるのに」にはとても共感してしまう。「~のに」というところが切なくてたまらない。今は仕方なくこういう現実を生きてるけど、これ!というものを得られたら、行方も居場所もそれで決まるっていう感覚、すごくよくわかるんだよね。

惨めな「現実」、不安な「未来」、「過去」の傷
どこをとっても満たされない中で求める、たったひとつの存在。でも、強く願っても現実的には叶わない。「簡単なことさ そのキス一つでいいんだよ」といっても、全然簡単じゃない。越えたいのに越えられない。このギリギリ感。だからこそ「そのキスひとつで」というタイトルが光る。長澤知之という人が歌うと、妄想や想像の世界も本当に実現するんじゃないかと思えてくる。 

この曲のMVは、これまたとてもかわいらしい。たくさんの紙の中からのっそりと動き出す長澤くんを捉えたとき、クスリとなってしまう。何より彼の表情がいい。こんなに自然体で映っている彼を見たのは初めてかもしれない。ずっと見ていたくなる大好きなMVなので、ここにも貼っておこう。
哀しくなったとき、眺めていたい絵だ。このモノクロの世界、この質感がとても美しく見える瞬間があるから。窓の外の植物が風にそよぐとき。長澤くんがうつむき加減でギターをつま弾くとき。儚く消えてしまう前に切り取って、額縁に入れて飾れたらいいのに…と思う。